海外のメディアでも取り上げられている企業なので、ご存じの方もいるかもしれないけれど、米マサチューセツ州にあるヴァイタニードルでも、人生経験が生産性を高めることが確かめられた。
ステンレス製のニードルやチューブといった特殊部品を製造するこの会社の従業員の平均年齢は74歳。48人いる従業員の約半数が65歳以上の高齢者で、最高齢は99歳。会社のホームページに掲載されている社員たちの集合写真は、どこから見ても同窓会にでも集まった高齢者たちだ。
ところが、この会社では高齢者の雇用を積極的に行ったことで、生産性を10年間で3倍まで向上させたのである。
高齢者雇用を始めるきっかけは、1990年代初めに遡る。当時、従業員の増員を募集した時に集まったのが、高齢者ばかりだった。米国でも日本同様、高齢化社会が急速に進み、若者が集まらなかったのである。
そこで、「猫の手でも借りたい状況なのだから、高齢者でもいないよりもいいだろう」と軽い気持ちで、高齢者を受け入れた。人手が足りない状況を乗り越えるには、高齢者を雇う選択しかなかったのだ。
そんな「若者を雇うまでのつなぎ」だった高齢者たちが、良い意味で、トップの期待を裏切った。
彼らは、実に質の高い仕事をしたのだ。トップが社員に求める信頼と会社に対する非常に高い忠誠心を示し、マニュアルには書き込むことが難しい経験を武器に、自らの持つ能力と知見を最大限に生かした。積極的にスキルを磨き、社員同士で助け合い、互いにスキルを向上させ、会社のためというよりも、社会のために頑張ったそうだ。
若い社員にとっては「ただの仕事」でも、高齢者にとっては「最後の仕事」。彼らは、自分の人生の集大成としてひたすら一生懸命働いたのである。
人生経験というお金では買えない財産が質の高い製品を生み、「最後の仕事」という思いが、生産性を高めたのである。
とはいえ、高齢者には、肉体的な衰えによる欠勤や病気がつきまとう。そこで同社では、社員同士で休んだ人の仕事をよりスムーズに補えるように複数の仕事を処理できる「クロストレーニング」と呼ばれる教育訓練を取り入れたり、会社にある19段の階段を毎日一往復することを義務付けたりと、高齢者のための教育方法を取り入れている。
肉体的な機能は20代をピークに衰えていくが、知力、知能などの精神的機能は年齢とともに緩やかながらも上昇する。高齢者ならではの“力”を、会社の武器にしたのである。